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ルドルフ・シュタイナー

 ルドルフ・シュタイナー(Rudolf Steiner, 1861年2月27日 - 1925年3月30日(64歳没))は、バルカン半島のクラリェヴェクで生まれ、オーストリアやドイツで活動した神秘思想家、哲学者、教育者である。

 

シュタイナーによれば、人間の持っている通常の五感では事物の表面しか捉えることができず、五感を超えた高次の感覚(霊的感覚、超感覚的認識)によって初めて事物の本性を把握することができるという。シュタイナーは透視能力を持っていたといわれ、それによって得た超感覚的世界の実相に基づいて人智学を創始して、人類の霊的向上を促そうと啓蒙を行った。

 

シュタイナーは、物質偏重に傾きすぎた今の文明の在り方を正すために、古代から受け継がれた秘教的・霊的知識を総合し、万人に公開し、それを近代的認識批判の立場からも受け入れられる言葉で語ることが必要と考えた。近代神智学から受け継いだ伝統的な東西の秘教の教義をバックボーンに、整合性と合理性のある体系を作り上げた。ミドルセックス大学のピーター・ワシントンは、人智学についてこう解説している。

 

人間の存在とは感覚的な存在と感覚を超越した世界が統合されている存在で、この点で人間は動物や天使と違っている。感覚を超越した領域には客観的な実体があり、現象世界も同様である。人智学はその二つの間の人間の位置を研究する学問である。これは絶対に我々が持つことのできない神々の知恵ではなく、人間の慎ましい知恵であり、むしろ人間についての知恵というべきものである。

 

彼は近代神智学の創始者ヘレナ・P・ブラヴァツキーのような純粋な霊媒ではなく、見霊能力者(透視能力者)であると同時に、「自然科学者の目と哲学者の論理的思考能力、それに芸術家の文章構築構築力」を備えており、神秘学を学問として成立させようとした。そのために、神智学協会の「マハトマ」のような、教祖にしか把握できず、教祖を介さなければ接触できないような神秘的存在を遠ざけた。霊媒や降霊術等の、理性的な思考から離れて感情に没入する“神秘主義”については、科学的でなく、まちがった道であると警鐘を鳴らしていた。

 

人智学が一つの学問になるためには、全ての人が彼の言う「超感覚的認識」を持つ必要があるが、シュタイナーはそれが誰にでも獲得できる能力であると考え、霊的な教師のための精神教育の確立を重視し、人智学の方法に従った修行、特にその「瞑想」と「集中」の行を毎日15分間行いさえすれば、自然と見霊能力が発現すると主張した。この点によって、シュタイナーは従来の神秘主義と一線を画している。霊的な事柄についても、理性的な思考を伴った科学的な態度で探求するということを重要視していた。人智学は神智学から心霊科学という概念を受け継いでおり、シュタイナーの言う科学は、一連の知識、明確なひとつの方法論を意味している。自著『いかにして超感覚的世界の認識を獲得するか』では、具体的な霊的体験を得るための修行法について記しているが、第二部を作る前に世を去った。

 

神智学の「ロード・オブ・ダーク・フェイス(黒い顔の主)」という、「グレート・ホワイト・ブラザーフッド・オブ・マスターズ(大いなる白き同胞団)」と闘争を続ける悪霊という漠然とした概念を明確に定義づけし、人類の主な敵は傲慢の霊ルシファーと物質主義の霊アフリマンで、ルシファーは人間は努力すれば人間の限界を超え霊的能力を持てるという身の程知らずな考えに陥らせる霊で、アフリマンは、現代科学・技術の最高神で、人類が精神と五感の領域だけを信じ霊的な面を拒むように仕向けると考えた。1914年に戦争が起こると、シュタイナーは戦争を起こしたのはダーク・フォースだと主張した。また、国家の運命は宇宙の計画の一部としてあらかじめ定まっており、各国には世界進化のために果たすべき役割があり、ドイツ人はその最も高度な点に関わっていると考えていた。国家はそれぞれ天が遣わした大天使が導いており、大天使はその国の民族精神とも言うべき存在だという。